からだを錆びさせないための食生活(2)
■ 錆からまもる n‐3 系脂肪酸 ■
東京薬科大学薬学部
菊川 清見
酸素は活性酸素になってからだを錆びさせるので、 酸素を多量に消費する過食と過度の運動はひかえる方がよいというお話をしました。
大気下の試験管のなかの実験では、活性酸素はからだの成分の遺伝子「DNA」、酵素を形づくる「タンパク質」、細胞を形づくる「脂質」を傷つけることがわかっていますが、なかでも脂質が最も傷つきやすいのです。
食物の油は含まれている脂肪酸の違いによって、活性酸素による傷つきやすさと栄養価値が異なっています。脂肪酸には、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸(n‐9系オレイン酸、n‐6系リノール酸、n‐3系α‐リノレン酸、EPA、DHA)があります。大気下での酸化は、n‐3系、n‐6系、n‐9系、飽和脂肪酸の順で、n‐3系が最も酸化しやすいのです。
てんぷら、炒めもの、ドレッシングに用いる油はn‐6系(べにばな油、大豆油、コーン油)とn‐9系(オリーブ油、高オレイン酸べにばな油)で、n‐3系のしそ実油はドレッシングには適していますが、てんぷらには酸化を受けやすく不適です。
世界中の油の酸化の研究者達は、からだのなかでもn‐3系が最も酸化されやすく、生じる酸化物が動脈硬化などの原因になると考えてきました。私たちは、酸素分圧が10分の1も低いからだのなかでは大気下と同様に酸化が起こるはずはないと考え、動物にn‐6系とn‐3系を多量に含む食餌を食べさせて、からだの中で発生した活性酸素による脂質の酸化度を比較しました。予想どおり、両群に差は認められませんでした。
また、強制的にからだのなかで活性酸素を多量に発生させた場合、n‐3系の方が酸化は進みましたが、活性酸素によるDNAの傷害は逆に低下しました。n‐3系の摂取は、活性酸素が多量発生した場合でもDNAの傷害をくいとめる役割を果たしていることを示しています。大気下で酸化されやすいn‐3系を含む油はからだの中では悪循環をおよぼす可能性は少ないのです。
すべての脂肪酸はからだのなかでエネルギーを産生します。その他に、n‐6系リノール酸は血管、血流や炎症をコントロールする重要な物質をつくるので、1日2g程度必要とされていますが、とり過ぎると心筋梗塞、アレルギーなどの生活習慣病になるといわれています。
n‐3系は、n‐6系のはたらきを制御して、心筋梗塞、アレルギーを防ぐだけでなく、頭をよくする、性格を穏やかにする可能性があります。
畜肉にはn‐6系、魚肉にはn‐3系、食用油はn-9とn‐6系系が大部分を占めています。現在の日本人は畜肉とn‐6系の多い食用油を多量にとっていて、n‐6系の摂取量は必要量の5〜6倍もとっているといわれています。
日本脂質栄養学会(会長は 浜崎智仁、富山医科薬科大学教授)はリノール酸のとり過ぎをさけるよう提言しており、n‐6/n‐3摂取量比を1〜2程度にすることが望ましいとしています。
私たちの食生活においては、1日1回は魚を食べる、n‐6系の多い食用油の摂取をひかえる、とよいとされています。