皆に好まれるのか高層ビル

 「六本木ヒルズ」は、超高層ビルの景観、眺望の素晴らしさ、ショッピング、レストラン街の豊かさによって、華やかにデビューした。「汐留シオサイト」に続く東京再開発の象徴として喝采を浴びている。綿密な準備に裏付けられた計画は大きな成功を収めたようだ。
 

 都市の再生をかけて、建築の手続きが短縮され、容積率も緩和されたため、都心の超高層ビルの建設ラッシュは一層盛り上がりを見せている。しかし高層ビルは隣接する古い建物、細い路地に囲まれ、オープンスペースは落ち着かない。谷間からわずかにのぞく空はまぶしい。高額の賃料を負担できる企業や住民は「勝ち組」となり、競争社会の波は荒い。喜んでばかりはいられない。

 このような高層ビルの流行は、都心から離れた郊外にも押し寄せてきた。
 所沢市では十数年前に地区再開発の整備基本計画をまとめ、その結果相次いで超高層マンションが建設された。周辺の住民は眺望を制限され、圧迫感や、プライバシーの問題、ビル風などに悩まされている。歴史的な景観は失われようとしている。
 東上線志木駅周辺の住宅建設は最近とみに勢いを増し、容積率一杯の高層の建築が目白押しだ。住宅建設もとうに十階を越え、十四、五階が当たり前になってきた。慶応義塾大学寮跡地は丘の上に十四階約三百五十戸が建つ。志木駅周辺の中高層住宅の建設は、朝霞市新座市域を含めて、不動産業者の予想によれば、近々一千戸を越すだろうとのこと、和光駅周辺では賃貸住宅は払底しており、朝霞駅周辺の建築計画も活発をきわめている。土地利用の効率化のため建物は空に向かって聳え(そびえ)立つ。


 高層ビルの建築計画が、日照や、風害、電波障害などの保障で済まされても、住む、生活するまちの景観に空が無くなってもよいのか。樹木を植えて緑を添えればよいというのでは空しい。どこのまちにも歴史が息づく。特色もある。高層ビルの建築では、綿密な計画を立て、時間的にも余裕をもって進めるようにしたい。質の高い開発が行われるよう、みんなでもっと考えよう。


■ 志木市本町五丁目に建設中の十五階建マンション

■ 国の有形文化財に登録された「朝日屋原薬局」


志木の「朝日屋原薬局」建物七棟
九十年を経て「国の有形文化財」に登録される

 国の文化審議会は三月二十日、志木市の「朝日屋原薬局」の建物七棟を、「国土の歴史的景観に寄与している」と評価して、登録有形文化財として指定するよう文部科学大臣に答申した。
 朝日屋原薬局は志木市本町のバス通り、旧「奥州道」に明治二十年(一八八七)ころ創業したが、今回登録された建物は、明治四十五年現在地に建築された主屋、土蔵、物置のほか、大正、昭和を経て増築された洋館、離れなどの全棟で、縦長の千五百平米の敷地に並ぶ建物が、老舗薬局の店構えと建物構成をよく残していることが評価された。

 すでに登録されている埼玉県内の文化財は、この七件を加えて五十五件となる。古い建物がつぎつぎに消えて行くいま、歴史のかおりを少しでも残しておきたいという気持ちを大事にしたい。


 

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