理化学研究所の理事長に
野依良治先生が就任


 和光市の理化学研究所の新理事長に、10月1日付けでノーベル賞の受賞者、野依良治先生が就任された。先生は京都大学で研鑚され、ついで名古屋大学を研究の拠点として、輝かしい成果を挙げられたが、西から東へ、このたびは先生にとってはじめての東京エリア、県南西部への赴任である。

 理化学研究所は、和光市の一角に広大な敷地を占め、イオン加速器を含む巨大な施設をもっている。古い歴史と高度の研究成果を背景として、物理学、化学、生物学などの学問の基礎を築いてきた(本誌5号参照)。10月1日独立行政法人となり、和光市の本所のほか、国内および諸外国にも支所をもつ。遺伝子工学をはじめとして、我が国の国益を掛けた科学技術のプロジェクトを展開している。今年度の全予算は八百億円にもなる。

 しかし地域住民から理研をみると、この巨大な施設の中で一体何が行われているのか、研究内容についても難解で近づき難い。核物理学の世界的な拠点と聞くと、市民は恐れをなしてしまう。しかし全く無縁であっては欲しくないのだ。最近各方面で強調されている『accountability』、説明責任をもって住民に対応されたいという願いは、市民の誰もがもっている。

 新理事長の野依先生はしばしばテレビ、新聞の座談会で、視聴者、読者に対して、科学を学ぶことの大切さを訴えておられる。市民の多くはすでにメディアを通じて先生と接しているので、地域でも親しみをもたれ、市民の科学する心を育てる機会になれば良いと思う。

 毎年春、実施される一般公開では、近隣の高校生をはじめ、多くの市民が参加し、会場の各所で、最新の進歩を理解しようと努力する光景が見られ、また所員の方々の丁寧な説明には熱がこもっている。
 今年は志木市、朝霞市、新座市を含む「県南西部4市まちづくり協議会」の主催で、オープンカレッジが開校された。和光市長が学長となり、9月26日には開校式が行われ、その一つに理化学研究所のコース「科学を学ぶ」が加えられた。10月30日、有楽町の東京国際フォーラムで開催された「なるほど脳の中身が見えてきた!」という特別講義では、最新の脳科学がテーマに選ばれている。年末の12月12、19日には、理研のキャンパスの見学も予定されている(問い合わせは和光市教育委員会生涯学習課に)。

 理研の公開は単なる知識だけでなく、市民の日常の生活に科学的な視点を与えるであろう。

 

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就任されて間もない10月30日、公開の「科学講演会」で
開会の挨拶をされる野依理事長


「21世紀の社会に必要なことは、豊かな、そして高い文化度と人間性への回帰、人間性の尊重だと思います。現代の科学者は、効率主義に陥り、これらを忘れてはいないでしょうか」と科学を学ぶ人たちに語りかけた。


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