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世界に向かって発信 基礎科学の研究拠点


研究所全景

特殊法人「理化学研究所」

 広大な敷地を占め、大規模な研究施設が連なる総合的な自然科学の研究所が和光市の一角に所在します。      
 ここでは物理学、化学、工学、生物学、医科学の広い分野の高度な研究が行われています。
 しかし私たち地域の住民は、緑に囲まれた建物群を外から垣間見るだけで、 この中で一体どんな研究がなされているのか、またそれらは私たちの生活とどんな関わりがあるのか、全く不明なのです。
 そこでこのたび広報室長の矢野倉実博士をお訪ねして、質問に答えて頂きました。
話題は豊富な上、難しい内容のものを含んでいるので、何回も足を運んで連載する予定です。

この研究所では一体どんなことをされているのですか。

―この研究所は1917年に創立され、80年以上の歴史を持ったわが国で唯一つ、しかも最大の規模をもつサイエンスの研究機関です。
創立以来自然科学の研究で輝かしい業績を挙げ、日本の研究レベルを世界的なものに押し上げてきたのですが、 それらの特色は設立の理念に見られます。
 まずこの研究所の沿革を辿ってみましょう。
 大正6年に民間の研究機関としてスタートしたのですが、設立のねらいは科学技術の進歩、向上にありました。
欧米の高度な研究水準に追い付き、追い越すことを目標としたのです。
物理学、化学の基礎研究を重視し、これを応用して実用化するというものでした。
 当時の皇室(現宮内庁)、政府および産業界からも多くの基金が集まり、東京都文京区駒込に産声を挙げたのです。
 創設後、ここでは次々と世界中が注目する優れた業績が打ち立てられ、 長岡半太郎、仁科芳雄博士などの物理学者が輩出し、湯川秀樹、朝永振一郎博士はノーベル物理学賞に輝きました。
戦前にサイクロトロン(加速器)が稼働していたということはこの研究所の驚くべき先見性と言うべきでしょう。
 戦前は、理研で開発された「アルマイト」「ピストンリング」「ビタミン剤」など多くの研究成果が実用化され、 またそれらを生産する企業が最盛期には63社も設立されて国民生活に直接寄与していました。
戦後、財閥解体というGHQの方針により、財団法人は解体され昭和23年株式会社となりました。
 研究のみを行う株式会社の維持は、極めて困難であったようです。
その後、昭和33年(1958)国によって科学技術に関する総合研究を実施する特殊法人に改組されました。
昭和38年(1963)、国の現物出資を受けて和光市への移転が始まりました。


(研究所正面)

この研究所のいまを語って下さい。

 和光市の設備は移転後急速に充実しましたが、現代の科学技術が高度化するスピードに追いつくために、 研究分野を一挙に拡大して、研究内容を先端的かつ高度化することになりました。
昭和59年 (1984) ライフサイエンス筑波研究センターを開設、 引き続き仙台にフォトダイナミック研究センター、名古屋にバイオ・ミメティックコントロールセンター、播磨研究所、横浜研究所を次々と開設、 英米両国をはじめ、海外にも拠点をつくり、和光本所はそれらすべてを統括する業務をも担うようなりました。
また本年4月には、神戸市に発生・再生科学の研究拠点としての神戸研究所を設置しました。

 研究の内容と成果については、これから回を重ねるたびにやさしく説明させて頂きますが、 ここではいくつかの項目だけを挙げておくに止めさせて頂きます。

  • まず現代の医療には欠かせない「遺伝子」の総合的な研究、生体の再生、細胞の情報伝達、免疫・アレルギーの総合的な研究…
  • 原子力、高エネルギー、宇宙の放射線…
  • 微細なナノテクノロジーをはじめとする物質工学…

―現在在籍する研究者数はほぼ二千人、国内外を含めて研究者数は数千人の規模に達します。
平成13年度の全予算は878億円、予算も大きいのですが、
その成果も膨大で、いまやわが国の科学技術のバックボーンを支えるようになっています。

「生分解性プラスチック」 その2

 前回述べたように、プラスチックと言えば便利なものなのに、捨てるときには厄介なもの。捨てても腐らない。
ところが土の中の微生物によって水と炭酸ガスに分解され、姿を止めなくなる「生分解性プラスチック」が開発され、 その市場が大きくなってきた。
この天然由来のプラスチック素材は衣服やカーペット、フィルム、使い捨てのコップ、皿などの食器が製造される。
農業、土木の資材にも利用され、これらは土の中にすきで押し込めば良い。
写真に示すように、10cmくらいの地中に埋め、植木や野菜のように水をやる。
1月も経つとこのフィルムは土に還されて、もとの水と炭酸ガスになる。
 世界的な規模をもつ化学会社「ダウケミカル」と農産物を事業とする「カーギル」の合弁企業 Cargil Dow の設立・生産活動が始まった。
材料はトウモロコシ、そのデンプンから得られる糖を発酵させて乳酸にする。
これを化学的に重合させ(分子を繋ぎ合わせ)てポリ乳酸(PLA)に導く。

  1. 植物よる糖の光合成
  2. 微生物による発酵
  3. ポリマーの化学合成
の3段階で生産される。


水をやると…

土の中で分解する。

「生分解性プラスチック」 その3。

 理化学研究所高分子研究室の土肥義治博士は、カーギル・ダウの3段階の生産方法の代わりに

  1. 植物によって糖、植物油から光合成
  2. 微生物による生合成
の2段階合成で新しいポリエステルを生産する方式を開発し、
このポリヒドロキシアルカン酸 (PHA) は優れた生分解性プラスチックの素材となることを発見した。
PHAは熱で加工しやすく(熱可塑性)、生体適合性を合わせもつ材料で、 しかも自然環境で速やかに分解されるので、医用材料としても有望である。
 土肥博士の研究はさらに前進して、このポリエステルを合成する微生物を単離(単独に分離)、 さらに遺伝子組み替えを行なってローコストの生産を目指す研究はいままさに白熱化し、国際的に注目されている。

かいじろうの詩と絵


『菊』
流れる雲の音楽

ぼくの行く先に雲があるのなら
ぼくは 雲に乗ってゆこう
明るい雲の電車にゆれて
青空を走っていると

ぼくは ひょっとすると
昔見ていた 小さな驢馬や
白兎や子鹿たちにまた
会えるのかもしれないね

そうしたら ぼくは昔聞いた音楽を
歌ってもらう人だ だから西風よ
フリュートでプレリュードを 演奏しておくれ
そして ぼくはそんな高い青空で聞いた
雲の音楽を 何時か春になったら
小鳥たちに 教えてあげようね
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