新座市の新条例/緑を残したい人々の想いは/パートナーシップ

宅地開発に事前協議を義務づけ、紛争の調停を行なう画期的な新座市の新条例

 開発事業者に事前協議を義務付け、近隣住民との紛争が生じた時には市長の責任で調停するという、新座市の二つの条例が、 月 日の定例市議会で可決された。

 開発の面積が五百平米以上、高さが十メートルを超える中高層建物が主な対象で、マンションの建設計画に対して近隣の住民への説明を義務付け、いままでは任意であったため、協議が打ち切られて中途着工となり、涙を飲んだ住民の訴えに、行政が直接関与することは大きな前進と言える。

 宅地の開発に伴う環境の劣化、住民の紛争が続いてきた新座市の人口は十五万人を越え、さらにその密度を増すことが予想される。

 開発業者による宅地の無秩序な開発行為は、東京都のベッドタウンとなったこの地域の宿命であるが、新座市がこれに歯止めを掛けようとする努力は、生活環境に敏感になった市民に力を与える。近隣の市町村でも真剣に検討することが望まれる。

 市では、都市計画部開発指導課が窓口となり、条例の提案に先立って、先日この地域ではじめて施行された、パブリックコメント制度を適用、ひろく市民の意見を求めた。

 この条例では、条文に違反した場合に、行政が勧告、命令する一方、事業者や違反の事実を公表することになっている。罰則条項は今後の検討課題であるが、本条例は本年4月に施行される。

慶応高校寮跡地内の緑を残したい人々の想いは

 ついに一万人以上の署名を集め、志木市長に対して、緑を守る市条例の主旨に基づく指導を開発事業者に求める要請書を提出、また土地を取得した三井不動産、三菱地所に対しては、直接市民が開発計画に参画することを要請、緑を残す市民の想いは、大きな広がりを見せてきた。  

 「慶応高校の緑に想いを寄せる会(本紙第6号を参照)」は、土地の引き渡しが行なわれる直前に、慶応高校側の許可を得て、現地を行政と市民が直接見学する会を計画した。

 十一月二十九日午後、志木市長、関係職員が現地を訪れ、多数の市民も散策の機会を得て、深まる秋を愛しみ、二百五十人もの市民は、掛け替えの無い環境が失われることを惜しんだ。

 十数年間寮長として生徒を指導された先生、現高校の生物クラブの先生と生徒も参加され、一同感極まって涙する方もおられた。


 このような緑への想いは、ついに志木市と不動産業者を動かし、十二月十一日、三者が歩み寄って協議する会が発足した。

 住民の要望の第一は志木市自然再生条例の主旨を基盤として、北側、西側の斜面林の保全に努力すること、第二に志木市の開発指導要綱の基準を上回る緑の保全と再生を開発のプランに反映すること、第三に近隣住民への日照、電波障害などに配慮することであるが、これらの要望は、事業の経済性、環境への影響を、市民自身が生態系の一員として科学する姿勢で見守るというもので、いままでに見られない真剣な力強い活動となってきた。

 古い建物の取り壊しは年内には行なわれず、引き続き三者の話し合い(第二回を)十九日に「大原町内会館」で行ない、その後も毎週継続して同館または市役所で開催することになった。マスタープランがいつ提示されるか、それに対して志木市当局と住民の意向がどこまで取り入れられるか、年末年始を挟んで、緊迫する事態も予想される。市民、行政、開発業者の三者にとって、将来重大な影響をもつ協議であることを認識し、真摯な態度で望むことを期待したい。


三者協議の会が始まる(志木市庁舎にて)

跡地を視察する志木市長、職員、市民グループ

シンボルの銀杏の下で、記念撮影

寮の門の前で・見学に訪れた市民

市民のパートナーシップで公共サービスの担い手は変わる・転機は近づいてきた…

 これまで公共サービスのメニューを立案し、実行する担い手は専ら行政であった。

 行政・議会を支えるのは、言うまでも無く住民や企業の納税であるが、例えば、教育問題や、道路、上下水道、公共施設などのインフラ整備は専ら行政の手に委ねられてきた。
   
 一方市民は首長および議会の議員を投票によって選び、行政・議会の施策に対する不満は、陳情という手続きでその意思を表明してきた。しかし陳情が否定され、門前払いになることも少なくなかった。

 市民が専ら行政に任せきりにする「受け身」から脱却する気運がにわかに高まりを見せている。

 「行政主導型」から「官民パートナーシップ型」への転換である。

 主役は市民の組織であるが、地域活動を目的とする特定非営利活動法人(NPO)は、公共の良きパートナーとして大きな期待が寄せられている。日々の暮らしに欠かせない公共のサービスを市民がつくり、行政に提案して、運営も行政に代わって担おうとするものだ。

 新座市では雑木林の整備を担う「グリーンサポーター」の制度を取り入れた。志木市では「市民委員会」を組織して、市民の声を聞き、市政に反映することをねらっている。しかしこれらは行政の呼びかけに基づく活動であって、市民が立案し、実行を市民が主導する活動とは流れを異にしている。

 一方自発的に課題を捉え、行政に提言して行動するグループは、増加の一途をたどっている。いま望まれることは、官が民のパートナーシップを信頼すること、行政主導から転換する意識の改革にある。


 PPPとPFI

Public Private Partnershipと Public Finance Initiative

 どちらも英国のブレア首相が打ち出した構想で、行政改革の新しい手法として注目されている。

 PPPは市民グループ、企業が公共サービスの立案から運営までを担うもので、政府も関心を寄せ、経済産業省の研究会は、官中心の硬直した公共サービスからの転換の必要性を指摘し、PPP事業の具体例を挙げている。地方自治体も真剣な検討をはじめた。参考として、「行政のためのPPPニュース」(http://www.pppnews.org)。

一方PFIは、

 社会資本づくりに民間の資金を導入するもので、これは一定のコスト削減効果はあるものの、「官が決めたメニューを押し付けるもの」「丸投げでは?」との批判の声が大きくなっている。本紙6号で取り上げた東京都水道局の朝霞浄水場の火力発電、塩素製造施設の導入は、この手法によるもので、委託した事業者に官が天下りする懸念は払拭できない。