合併問題/慶応高寮跡地問題続報/転機の教育

住民投票は、市民の 「公共参加」の意識を 自ら高める大切なプロセス

正念場を迎えた四市の合併

 朝霞市・志木市・和光市・新座市の合併は是か否か?住民の意思を問う投票が、四月十三日(日)に、埼玉県議会議員の選挙と同時に行われる。
合併が問われている各市で、同時に投票が行われるのは、全国でも初めてのこと。

 すでに各市の広報などで告知されているように、平成七年に市町村の「合併特例法」が改正され、国の合併を推進する姿勢が明確にされた。平成十七年までに市町村が合併の手続きを完了すれば、削減の傾向にある地方交付税が十年にわたり現状維持を保証され、その他の優遇措置がとられるというもの。

 このような流れの中で、平成十二年に四市合併を目指す署名活動が行われた結果、各市の議会の議決を経て、「朝霞市・志木市・和光市・新座市合併協議会」が平成十三年四月に設置された。

 この協議会は、合併後の都市づくりについて検討し、市民への広報にも努めている。住民への説明会もたびたび開いてきた。

 政策として、合併を遮二無二進めようとする国の動きに力が入ってきた。「住民が地方自治体に求める行政サービスが高度化すれば、合併という手段によって行政を効率化し、強い市町村をつくるしかない」と言うのは、地方制度調査会長をつとめた諸井 虔(けん)氏の言葉だ。

地方分権を真剣に考えよう

 一方合併に抵抗する専門家も少なくない。「いまの財政危機は、振り返ると政府の一人芝居ではないか。せっかく地方分権が進みだしているのに、住民にはまだ見えにくい。国が飴とムチで合併の旗振りをするのをやめるべきだ」との意見もある。地方自治体もそれぞれ明確な意思を表明しはじめた。

 いずれをとるか、半世紀に一度とも言われる合併論議を真剣に問いたい。『どちらにしても世の中はあまり変わらないから、論議には無関心でいたい』という方がいるかもしれない。しかし公共と個人は深く関わっていることを、是非とも忘れないようにしたい。

慶応高寮跡地の開発計画 ‐三者協議の行方を追う‐

  慶応義塾が売却した志木高校の土地については、すでに本紙6、7号で取り上げた。

 敷地約一万四千平米、三百四十戸の建設という大規模な開発であるが、このような事業を進めるに当たって、業者は行政への手続きを優先させ、住民への説明は手短かにという手法が慣例となっていた。しかし今回は違う。三者対等の協議を基本とすること、同時に「緑のワークショップ」を開くなどのプロセスが取り入れられた。すでに叩き台のプランに大きな変更を迫るといった場面もでてきた。

 年末から二月末までに、事業主である三井不動産、三菱地所と市役所、住民グループとの三者協議は五回に及び、「緑のワークショップ」も二回、近隣住民との話合いも頻繁に行われた。その結果、敷地内に充分なパブリックスペースを確保し、斜面林は一体として保存する方向の計画が進んでいる。新しい居住者とともに、非居住者も自然の移り変わりを楽しめるようなプランが現実味を帯びてきた。

 しかし、新しい高層の建物による日照、景観などへの影響は、その住宅と現場との位置関係によっては居住者の間で異なったものとなる。

 北側、東側の居住者は、計画中の東棟の建設、駐車場の設計に反対して、市長と事業者に陳情書を提出した。
 計画中の建物は法規上で許される容積を満たして高さは十四階となり、空を覆うことになる。如何に知恵をしぼっても、建造物全体の規模を圧縮することは、経済が許さない。

 志木市の「緑のまちづくり」の重要な拠点だった現地を、もっと早く開発の規制をしておくべきだった。志木市と売主の慶応義塾に対して、その無念の思いはつのる。

転機の教育を考える

学習塾の栄光

 三月になると、学習塾には、私立中学、私立高校合格者のビラが一斉に掲示される。一人で複数の中学、高校に合格した者もいる。進学塾は賑々しく、私立学校への進学を果たした生徒の笑顔が並ぶ。大学への進学に有利な私学への合格発表は、受験生の親にとって、将来への夢を存分膨らませる至福のときだ。

なぜ私塾は親達に頼りにされるのか

 ある学習塾のベテラン教師は「公立の学校では学習指導要綱にしばられ、また雑用に追われて教えたいことも教えられない」という。学習塾ではしばしば理解する能力によってクラス分けされる。生徒が分からないときには、その生徒の特徴に踏み込んで解析する。そして解決を目指して新しい指導法にアプローチする。
 家庭教師の指導はときによっては学習塾に優る。生徒の個性に深く踏み込んで、適切に指導する優秀な家庭教師も少なくない。
 「何故日本では小中学校から熱心に私塾に通うのか」「学習指導の国家資格もないのにどうして私塾ははやるのか」。昨年アテネで開かれた教育シンポジウムでは、必要悪などといわれながら、日本の子どもの基礎学力づくりを担ってきた私塾、家庭教師の存在は、かつてない脚光を浴びた(朝日新聞02年7月28日の記事を参照)。
 公立学校に「ゆとり」が取り入れられた結果として学習時間、内容が削減されてしまったいま、親達の不安はいやが上にも増幅されている。

公立校の構造改革

 文部科学省をはじめ、教育に携わる方々は、最大の課題である「学力の向上」に向かって大きな努力を払いつつある。その方法として、多様な新しい取組みを提案しようとしており、例えば六三連続の九年制、学区の壁を取り除く自由化、脱画一化を進めるための教育特区などがある。従来考えられなかったような大胆な内容であるが、改革の流れの核心は、競争原理の導入でなければならない。
 学力低下の問題では、教員の力がしばしば問われる。公立校の教員は、過ちを恐れず大胆な改革に取り組むべきだ。

教育も財力次第?

 学習塾や家庭教師に頼らなければならないとすれば、満足な教育は財力次第ということになる。
 東京大学を例に合格者の出身校を調べたデータによると、公立高校からの合格者は減り、私立高校からの合格者は増え続けている(朝日新聞02年10月7日の記事を参照)。小中学校、高校の十二年間にかかる教育費は、全部私立校に進学した場合、全部公立で学んだ場合に比べて二倍以上になるという。塾や家庭教師に掛かる費用を含めると、金額はさらに膨らむ。

 教育を取り巻く環境に対して危機感を持つべきときのように思われる。


学習塾に通う子供たち

学習塾前の合格発表